【ちはやふる/末次由紀】「好き」が見つかる大切さに気付ける漫画

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いきなりですが、一つ質問をさせてください。YouTubeやTikTokなどの動画を見る時間以外で、今、時間を忘れるほど夢中になれるものはありますか?「特にない」と答える方が多いかもしれません。

そんなものがなくても「困ったな~」なんて思うことはないと思いますが、「夢中になれるもの」があるかないかによって、普段の生活の質は大きく変わるんじゃないかって思うんです。

私の経験上、夢中になれるものがないと、日々のちょっとした「嫌な出来事」が心の大部分を占領していました。そうなると心に余裕がなくなり、何を見ても「嫌な部分」ばかりを探してしまうような、負の感情だけが増殖してしまうんですよね。

「夢中になれるもの」で心を先に満たしてしまえば、嫌なことが入り込む隙間をなくすことで、それまでなら気になっていた嫌なことも、自然とかすんで気にならなくなるものです。だから、今の生活を振り返って「なんとなく毎日を過ごしているな」と感じているのであれば、大人も子供も関係なく、夢中になれるものを意識的に探すことを勧めます。

で、何も夢中になれるものがないという方に役立つのが、「漫画」です。

漫画には、人生を豊かにしてくれるような新しい発見や、心に響く言葉が驚くほどたくさん詰まっています。漫画を読めば興味の幅が広がり、普段の生活が楽しくなる可能性がぐんと高まります。これほど手軽なものですから、読まない手はありません。

そこで、今回ご紹介したいのが、『ちはやふる』という漫画です。

これ以降はネタバレの可能性があります。ご注意ください。

競技かるた

「かるた」と聞いて皆さんが思い浮かべるのは、小さい頃にお正月に家族・親戚で囲んでやった「いろはかるた」ではないでしょうか?しかし、この『ちはやふる』で描かれるのは、五・七・五・七・七のわずか三十一音に青春を懸ける、「百人一首」を使った競技かるたの世界です。

「かるたの漫画なんてつまらなそう」そう思いませんか?私も最初はそう思っていました。

そもそもこの本を手にしたのは、漫画のまとめ売りセットの中にたまたま入っていたからでした。「読みたい!!」と思って購入したものではなく、かつ、少女漫画であること、また、そのタイトルから読む気も起きず放置していました。

ところが、たまたま読む本がなく、目の前にあった『ちはやふる』を読んでみると……。「おい、これ、おもしろいぞ」と、一瞬で、引き込まれてしまいました。

競技かるたの存在すらほとんど知らなかったのに、『ちはやふる』という漫画を読むことで、競技かるたに興味を持ち古典の勉強をしたくなる自分がいるんですから、驚きです。

誰もが主役になれる「群像劇」

1巻は、綾瀬千早、綿谷新、真島太一という3人の小学生が、かるたを通じて繋がるところから物語が始まります。

最初はこの3人を中心に話が進んでいくんだろうな~と思っていると、途中からサブキャラだと思っていた登場人物たちが、それぞれ主役になっていく群像劇へと変わっていくんです。

1巻中盤に初めて出てくる原田先生(府中白波会の会長:原田秀雄)なんて、3人がカルタを続ける場所がなければ話が続かないから、そこに繋げるためだけに登場させただけだと思っていました。

ところが、物語が進むにつれて随所で心に響く言葉をつぶやく、『ちはやふる』に欠かすことができない重要な存在になっていくんです。

原田先生だけではありません。

  • 木梨 浩
  • 大江 奏
  • 西田 優征
  • 駒野 勉
  • 筑波 秋博
  • 花野 菫
  • 田丸 翠
  • 若宮 詩暢
  • 山本 由美
  • 結川 桃
  • 山城 理音
  • 逢坂 恵夢

この中には初めて登場したときには主役として取り上げられるなんてまったく想像できないキャラがたくさんいます。

この漫画が、もし単に「かるたの勝敗」だけを描く物語だったとしたら、2008年から2022年まで14年も連載が続き、50巻もの単行本が出るほど長く愛されることはなかったはずです。

これほど支持されたのは、かるたを通じて描かれる人間模様や、登場人物一人ひとりの成長が、読者の心を掴んで離さなかったからに他なりません。

実際に作品の面白さの中に学ぶことがたくさんあって、読んでいると「年齢を問わず、人にはそれぞれの人生や生き方があるんだな~」と痛感させられました。

 

少し話が変わりますが、50巻を読破した後に、ぜひもう一度1巻を読み返してみてください。

私は読み終わった後に1巻をすぐに読み返したんですが、「お~そうくるのか~」と鳥肌が立ちました。

 

なお、noteにて1巻ごとの感想・レビューを書いていく予定です。特定の巻について深く知りたい方は、併せてご覧ください。

受賞歴

漫画『ちはやふる』は、連載初期の2009年に第2回マンガ大賞を受賞しています。同年に「このマンガがすごい!」のオンナ編で3位、翌2010年には1位に選ばれました。さらに2011年には、第35回講談社漫画賞少女部門も受賞しています。

また、アニメも全3シーズン制作されていますが、そのすべてが最初から2クール(約24話)で放送されています。1クール(11~13話)で終わる作品も多い中で、各シーズンでこれだけの放送枠が確保されていたことからも、この作品に対する期待と人気の高さがわかります。

競技かるたを実際にやる!?

『ちはやふる』を読んでいると、自分でも実際に競技かるたをやってみたくなる人が大勢いるはずです。とはいえ、「かるたなんて人気のないもの、できる場所なんてそうそうないだろう」と思うかもしれません。しかし、探してみると意外と身近な場所に見つかるものです。実際、私の住んでいる地域でも、自転車で5分ほどの地域のセンターで練習が行われているみたいです。

また、全国の高校にも部活動として以前から存在しています。興味深いことに、競技かるた部がある高校は学力が高い傾向が見受けられます。知力と体力の限界に挑むこの競技が、なぜこれほどまでに多くの人を惹きつけるのかという理由は、漫画を読めばきっと納得できるはずです。

自分語り

実際に私は、夢中になれるものを見つけたことで、日々の生活で「嫌だ」「つまらない」と感じることが目に見えて減ったように思います。

何に夢中になったのかと言えば、それは「勉強」です。

ずいぶん昔の話になりますが、私は高校1年生の入学時点で英検5級に合格できないほど勉強に対して苦手意識を持っていたんです。小中学生の時は漫画やゲームに明け暮れており、今振り返れば時間を浪費するだけの過ごし方をしていました。

しかし、超底辺校だった母校から「福岡大学に2名合格している」という事実を知り、「うちの高校からでも頑張ったら福大に合格できるかもしれない」と急にやる気が込み上げ、高校進学後は毎日5時間ほど机に向かうようになりました。その結果、中学当時の私を知る人なら誰も想像できなかったであろう、明治大学に現役で合格してしまいした。

「明治大学なんて大したことない」と思う方もいるかもしれませんが、当時の私の学力からすれば、奇跡といっても過言ではありませんでした。

この成功体験を得てからは「あれもやりたい、これもやりたい」と、何に対しても前向きな姿勢で臨めるようになりました。すべてをマイナス方向に考え、周りを否定してばかりいた自分が、夢中になるものができたことをきっかけに、それまでの人生を大きく変えることができたのです。

このように、何かに夢中になるということは非常に大切です。

『ちはやふる』を読むと、何かに全力で打ち込むことのカッコ良さに刺激をもらえます。それはかるたに限らず、勉強でも仕事でも、自分が今までスルーしていた意外なものに興味が沸くきっかけになるかもしれません。ただ何となく過ごしているだけの日々をちょっと変えてくれるかもしれないので、少しでも気になったなら、ぜひ1巻を読んでみてください。

人生、何がきっかけになるかわからない

面白いことに、末次由紀先生がこの漫画を描き始めたのは、担当編集者からの「かるた漫画はどう?」という何気ない提案がきっかけだったそうです。私はてっきり、先生がもともと競技かるたの熱狂的なファンだったのかと思っていました。しかし、当初は「仕事」として向き合い始めた世界が、描いていくうちに先生自身の人生をも大きく変えるほどの存在になってしまったみたいなんです。

今では、「競技かるた」といえば「ちはやふる」と言っても過言ではないほど、この作品が百人一首やかるたの世界に光を当てる大きな役割を果たしています。「何がきっかけで人生が変わるかわからない」というのは、読者である私たちだけでなく、この作品を生み出した先生自身にも言えることだったんです。

もちろん、この漫画を読んだからといって、誰もがかるたそのものに興味を持つとは限りません。しかし、「こうやって必死になって頑張れるものがあるのはいいな」と作品を通じて感じることで、今まで見過ごしていた自分の周りにある「夢中になれること」に気づかせてくれるかもしれません。

「ちはやふる」はただ何となく過ごしているだけの日々を、新しい何かへ踏み出すきっかけに変えてくれる一冊です。

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