子どもの成長について、心配なことや悩んでいることはありませんか?
「どうしてうちの子は、何度教えてもこれができないんだろう?」
「もしかして、うちの子だけ他の子と違う?」
と不安になることもあるかもしれません。
実は、脳の発達や、得意・不得意のバランスに、生まれつきの個人差があり、子どもの成長や学びのスピードは一人ひとり全く違います。
この違いを理解し、その子に合ったサポートをすることで、子どもは安心して自分らしく育つことができます。
タイトル | 知的障害と発達障害の子どもたち | ||
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著者 | 本田 秀夫 | ||
出版社 | SBクリエイティブ | 出版年月日 | 2024年3月15日 |
目次
こんな人にお勧め
本のタイトルから、教育・福祉・医療関係者以外の読者の多くが「子供の成長に不安を感じている親」になるかと思います。
しかし、この本の読者対象はもっと広く、子を持つ親すべてになります。
できれば、親になったらすぐに手にとってもらうのが理想です。
この本を読んでおけば、普通に生活しているだけでは気づきにくい、認知機能の弱さに「もしかして」と気づくためのヒントになるからです。
軽度の知的障害や境界知能は、見過ごされてしまいがちです。
そのため、社会に出ても生活がうまくいかないというケースも少なくありません。
もし、もっと早くから発見して適切な支援ができれば、お子さんの将来は大きく変わるはずです。
ただし、読むことで必要以上に不安になる危険性もあります。少しくらい周りと違うことはあって当然です。
周りの子と比べたり、普段の状況から、相当程度の可能性を考えられる場合は専門家に相談することを勧めます。
本の内容
この本を読むことで
- 努力ではどうにもならないこともある
- 得意・不得意に気づくことの重要性
- 周りを頼ることの大切さ
といったことが分かります。
少しでも気になったときは、実際に本を読んでみてください。
努力だけではどうにもならないこともある
学校の勉強や生活習慣について、どんなに頑張ってもうまくいかないことがあります。
例えば、クラスには先生の話を一度聞いただけで、すらすらと計算ができる子がいる一方で、同じように頑張っているのに、なかなか理解できずに苦しんでいる子もいます。
もし、自分の子どもが努力しているのに良い結果が出ないことが続いているなら、それは「努力が足りない」のではなく、その子に合った学び方や教え方ができていないだけかもしれません。
「境界知能」という言葉を聞いたことがあると思いますが、これは、知的機能が平均よりも少しゆっくりしている状態を指します。
IQ(知能指数)でいうと、85から70の間のことです。
人口の約14%がこれに当てはまると言われています。
この状態は見た目では分かりにくく、本人も「なぜか周りの子みたいにできない」「自分はダメな子だ」と自信をなくしてしまうことがあります。
そして、周りの大人も「ちゃんとやればできるはず」と考えがちで、本人の本当の苦しさに気づきにくいのです。
得意・不得意に気づくことの重要性
子どもの得意・不得意は、まるでデコボコ道のようなものです。
例えば、絵本を読むのはとても上手なのに、身の回りのことが年齢の割に苦手だったり、友達と上手に遊べなかったり。
このようなアンバランスさがある場合、その背景に発達のゆっくりさがあるかもしれません。
もし、お子さんが幼い頃に発達の遅れを指摘されたことがなくても、小学校に入ってから不登校になったり、学校生活でつまずきが見えたりして、初めて境界知能や軽度の知的障害に気づくケースもあります。
大切なのは、早くからその子の特性に気づいて、その子に合ったサポートをしてあげることです。
そうすることで、子どもは「自分はダメだ」と落ち込んだり、イライラしたり、不安になったりする「二次障害」を防ぐことができるかもしれません。
どんなサポートができる?
まず、子どもが「何ができて、何ができないのか」を、先入観を持たずにみてあげることが重要になります。
そして、できないことを無理にできるようにさせようと頑張りすぎないことが大切です。
例えば、IQが70から85の境界知能のお子さんは、10歳の時に知的機能が7歳から8歳半くらい、と考えることができます。
小学校4年生の教室に、小学1年生から中学1年生までの子が一緒にいる、と考えると、みんな同じペースで授業を進めるのがいかに難しいかが分かります。
だからこそ、その子に合わせて「ゆっくり」教えてあげること、そして苦手なことは、無理に克服させようとせず、周囲の人に助けを求めることを教えてあげましょう。
昔は「何でも自分でできるようにならなければ」と考えられていましたが、現代では「人を頼る」というスキルもとても重要だと著者は書いています。
親が、そして子ども自身が、周りの人に助けを求めることで、お互いに心に余裕を持つことができます。
引用
以下、本書からの引用を基に書いています。
P83
教室の中には、先生の話を聞いたらすぐに理解して、分数の計算ができるようになる子もいます。一方で、授業中にはうまくできない子もいます。あとで復習をして、時間をかけて、できるようになっていく。そういう子もいるわけです。子供によって理解の早さは違いますが、知的障害の子は、その時期には何時間勉強をしても分数が分からない場合もあります。
できるできないに個人差(能力的にも時期的にも)があるという、当たり前なのに多くの人がちゃんと理解していない部分が書かれています。
P85
小学校の低学年・中学年で勉強がどうにも苦手な子どもというのは、多くの場合、努力が足りない子ではありません。軽度知的障害や学習障害などがあって、その子に合った学習ができていないケースが多いのです。そういう子どもには平均的な教え方ではなく、その子に合わせて「ゆっくり」教えたほうがいいです。
P105
例えば、幼児期にある程度しゃべれている子は、知的障害があっても気づかれにくい場合があります。生活習慣の習得などが遅れていても、会話はそれなりにできているということで、「発達に問題はない」と思われていることがあるのです。重症度でいうと、軽度知的障害くらいのケースです。境界知能の場合もあります。
「発達障害・軽度知的障害や学習障害のせいで勉強が苦手」「大人の発達障害」という内容が書かれてある本はいくつかありますが、それらは、既に困難が生じ支援を受けるかどうかの段階にいる子に向けてあるので、読むべき人に読まれていない可能性が高いです。
しかし、これは新書として、しかも帯に「気づかれにくい軽度~境界知能」と書かれてあることに類書と全く異なります。
P98
人間の持っている能力には、残念ながら個人差があります。勉強が得意で、それほど努力しなくてもらくらくわかってしまう子もいれば、人一倍時間を使っても教科書の内容がなかなか理解できない子もいます。がんばってもいい結果がでない。それが何度も続くと、本人の心のなかに苦手意識が生まれてきます。そうこうしているうちに、勉強すること自体が嫌になってしまうかもしれません。私はそのように苦手の克服を目指して頑張りすぎる育ち方を「過剰訓練タイプ」と言っています。
勉強が苦手である可能性がものすごく高いのに「やればできる」「努力不足だ」と思いたい気持ちは分かりますが、専門家がここまではっきり書いてくれている通り、無理なものは無理だということを知ることは大切です。
本当に努力不足なら、努力をすればすぐにできるようになります。
P106
軽度知的障害や境界知能の子は、発達の遅れに気づかれず、単に「勉強が苦手な子」とみなされがちです。そして「勉強が苦手な子」は「努力が足りない子」とみなされてしまうことが多いです。
これについては、境界知能の子でも努力によりテストで一定の点数を取れることがあり「やればできる」と思われることがあるとも本書で指摘されてあり、ここまでしっかりと書いてくれる本は今まで本当にありませんでした。
本にも書かれていますが、努力をしているのに勉強が苦手という状況が続いている場合は専門家に相談したほうが絶対にいいと私も思います。
努力でどうにもならないのに努力を続けることほどつらく意味のないものはありません。
「意味がない」というと「頑張っていることに意味がないわけはない」という批判を受けるんですが、それは努力でどうにかなる場合です。
どんなに努力しても成長する見込みがない場合に努力をするのは時間の無駄にしかなりません。
そうであるなら、伸びる部分を見つけてそれを伸ばすことに力を入れるべきだと私は思います。
この本を読んで思ったこと
軽度知的障害や発達障害に焦点を当てている本は多くありますが、「境界知能」にここまで深く切り込んだ本は初めてだと思いました。
この本を読んだ人の中には、宮口幸治の著書『ケーキの切れない非行少年たち』も読んだ人は多くいるとおもいますが、「自分の子には関係ない」と他人事に感じるだけに終わったと思います。
しかし、この本は、子どもがいくら努力しても結果が出ないことにイライラした経験のある親にとって、決して他人事とは思えない内容になっています。
私は「努力をしても勉強ができない子もいる」と主張をしてきました。
しかし、専門家ではない私がいくらいっても、そこに信憑性はありません。
専門家が書いた本を引用して説明しようにも、今まで出版されてきた知的障害・発達障害の本は、程度が重く既に社会生活で問題を抱えている人への対処法に焦点を当てたものばかりで、極端さが目立ちにくい軽度な知的障害や境界知能の子たちもいること、そして、その場合に具体的に何をすればいいのかを示してくれる本はありませんでした。
そんな状況の中出版されたのがこの本です。
この本は、私が2007年頃から多くの人に知ってもらいたかったことのほぼすべてが書かれてあり、「ここまで突っ込んで書いた本を出せるんだ」と初めて読んだときは相当驚きました。
もしかすると、宮口幸治の著書『ケーキの切れない非行少年たち』がベストセラーになり多くの人が読んだことで、境界知能について取り上げることを出版社が躊躇しなくなったかもしれません。
この本で特におすすめするのは早期発見・支援(治療・改善ではなく「支援」です)の重要性を繰り返し述べていることです。
小さいときに将来どのくらいまでIQが高まるかの目安が分かれば、大人になったときにどの程度のことまでならできるのかが推測できるので、早期訓練でどこまでやったほうがいいかの目安もでき、適切な支援に繋がりやすいという分けです。
ピアジェの「認知発達理論」によると
- 感覚運動期(0~2歳)
- 前操作期(2歳~7歳)
- 具体的操作期(7歳~11歳)
- 形式的操作期(11歳~)
もし、大人になったときに具体的操作期までしか発達が見込めない場合、形式的操作期以降にならないとできないことをやろうとしても、無駄になるかもしれない。
と言ったことが書かれています(各時期についての細かい内容については本書を読んでください)。
ただ、「なぜクラスに4・5人は授業についていけない子がいるのか?」「なぜ境界知能(IQ85〜70)の人が14%もいると判断できるのか?」ということについては従来の本とほぼ同じようなことしか書かれていないので少し説明を加えておきます。
IQは多くの人にテストを受けてもらうことによって統計的にできた数字で、点数の高低を見ていくと真ん中に人が集中して、高い点数や低い点数になるほど人が少なくなっていたらしいです。
多くの人が集まった部分を中心(平均)にし、分かりやすいように100という数字をつけ、それを中心に70・85・100・115・130というように15で区切っていくと、
- IQ130以上が約2%
- IQ130~115が約16%
- IQ115~85が約68%
- IQ85~70が約16%
- IQ70未満が約2%
これが、誰もが一度は目にしたであろう、IQの正規分布表に現れている数字(詳しくはウィキペディアの「知能指数」を)です。
IQはテストの結果をもとに統計的に出している数字なので、かなり信憑性の高い数字です(当たり前のことからなのか、テストをしているからその数字は信憑性の高いものだということを分かりやすく書かれた本が意外とないんですよね。なお、私の塾講師としての経験上、勉強が極端に苦手である可能性のある子を多く見てきていて、その状況と照らし合わせてもこの数字はかなり正確なものだと思います)。
つまり、1クラス30人いるとすれば、4か5人は、IQ85~70の子がいる可能性がでてくるわけです。
IQ70未満になると、重い認知的な困難があるため、比較的早い段階で気づかれることが多く、小学校に入る前に支援を受けることが多いみたいですが、
85~70のだある程度できてしまう部分もあるので、状況によってはまったく気づかれないまま高校を卒業してしまうこともあるようです。