発達障害の子供を育てるときに悩むであろうことに対し、具体的な対応の仕方を書いている本が「Q&Aと事例で読む親と教師のためのLD相談室」です。

Q&A方式で難しい用語などが使われることもなく、子どもの学修に状況に不安を持っている親にはかなりお勧めの本です。

 

序章 LD等の子供たちの教育とその課題

「通常の学級における指導」と「通常の学級以外の場における指導」に分けLD等の子供たちに対する指導が具体的に示されたことに触れています。

通常の学級における指導では

  • 担任が配慮して指導
  • ティーム・ティーチングによる指導

通常の学級以外の場における指導では

  • 通常の学級における授業時間外の個別指導
  • 特別な場での個別指導
  • 専門家による巡回指導

序章を見て私が思ったのは、教師の質の向上が今後は絶対に欠かせないということです。

発達障害の知識を中途半端にしか知らない人が教師になったところで、発達障害の子供に配慮をするのはかなり難しいと思います。

今後は、教員免許の資格を取得するには精神保健福祉士か社会福祉士の資格を必須条件にししてもいいのではないかと思います。

精神保健福祉士・社会福祉士は病院・福祉施設への実習が義務付けられていますし、発達障害について真剣に考える機会がたくさんもうけられています。

資格を取得させることができないのであれば、専任のスクールソーシャルワーカーを生徒数に応じて一定数配置するなどの対応をしてもらいたいです。

第1章 Q&A

第一章では、具体的質問事例をだし、それに対して回答をするという形が取られています。以下の節が設けられています。

  • 第1節 LD・ADHD・高機能自閉症の基礎知識
  • 第2節 乳幼児期の問題と対応
  • 第3節 就学期の問題と対応
  • 第4節 小学校での教育の問題と対応
  • 第5節 中学校・高等学校での教育の課題と対応
  • 第6節 家庭での教育と育て方の問題と対応
  • 第7節 LD等の教育指導者となるために

第1節

第1節では「知的障害と自閉症は区別がつくのですか」「LDやADHDのことを本人に理解させるにはどうしたらよいですか」など、多くの親が知りたいであろうことに筆者(山口薫・上野一彦・緒方明子さん、その他多数の専門家)が回答をしています。

「LDの診断は教師でもできますか」という質問に対し

確かにLDは教育用語ですが、だからといって教師がそうした用語を軽々しく口にすることは慎まなければなりません。子どもへの日常的な配慮指導による教師と保護者との信頼関係が成立していることが前提となります。

と、書かれているのですが、まさにその通りだと思います。

私は塾の講師をしているのですが、入塾したあと、指導をしてからLDの可能性があると分かっても、そのことを親に告げることが難しいです。

入塾して数週間の子の親に「LDの可能性がある」とは言えませんし、何ヶ月も塾に通ってくれた後、「実はLDの可能性があります」とも言えません。

なので、このようにならないように、入塾の前提としてLDの可能性があったらそれを伝えると言っています。

これが良いことなのかどうかは正直わかりませんが、LDの子に通常の勉強を指導することはしてはダメだと私は思っているので、このような対応が現在できる最善の事だと思っています。

暗記が他の人よりも苦手

暗記が他の人よりも苦手だということだけを持ってLDだと勝手に判断しないようにしましょう。

全くアルファベットを勉強したことのない中学1年生が、英単語を暗記するのに時間がかかるのは当然です。「apple」という単語を覚えるのに大人からしたら信じられないくらい時間がかかることもあります。

そのようなときは、アルファベットの小文字がしっかりと暗記できているかどうかを確認したり、3・4日くらい毎日覚えさせてみて、それでも忘れるというようなときに初めて疑うべきです。

あとは、中学2年の時にアルファベットを書けない場合は勝手な判断はできませんが、かなりの確率で何らかの学習障害があるはずです。

全部ができないわけではない

LDだからといって、すべてのことができないというわけではありません。英語は全くできないが数学がものすごく得意だということはよくあります。

そのような場合は、得意科目を伸ばしてあげるようにしましょう。公立高校入試は5教科あるので、特定の科目が出来なければ目標とする学校に進学することは難しくなるかもしれません。

しかし、大学入試は違います。英語さえできれば合格できる大学や、数学さえできれば合格できる大学は探せばいくつも出てきます。

「私は何もできない!!バカなんだから!!」

そんな言葉を子供に言わせてはいけません。

子どもに、自分の状況がどういうものなのかをしっかりと理解させることができれば、「私はできないこともあれば、できることもある。できることを伸ばしていくんだ」と思ってくれるはずです。

 そのほかの節

  • 乳児期に発達に気掛かりがあった場合、どこに相談したらよいでしょうか
  • 身体の動きがぎこちなく、よくころびます
  • 同年齢の子どもと遊びません
  • 特定のものだけに過度に熱中します
  • 修学の時に身につけておくこと
  • クラスのなかでどのような配慮をしてもらえばよいのでしょうか
  • 担任の先生が替わるたびに苦労します
  • 学校に行きたがりません
  • 落ち着きのなさは薬で治るものでしょうか
  • 勉強についていけなくなったときはどうしたらよいでしょうか
  • 高校卒業後の進路について教えて下さい
  • 父親を巻き込むには
  • つい叱ってしまいます
  • 妹が発達障害のある兄に追いついてきた
  • 計算が苦手な子の家庭学習
  • 母親の身体に触る

など、多くの質問に対する回答があるので個人的にかなりお勧めな本です。

第2章 特別支援教育の動向と実践事例

    • 第1節 特別支援教育の動向
    • 第2節 幼稚園・保育所での実践
    • 第3節 小学校での実践
  • 第4節 中学校での実践
  • 第5節 高等学校での実践

全ての公立学校で実践されたらどんなにすごいことだろうかと思います。ただし、これらは現在の公教育の環境では実践不可能だと思います。

ガラガラポンして、一からすべてを作り直す必要があると思います。